大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3389号 判決 1994年4月15日

原告

久枝修一

被告

山﨑陽子

主文

一  被告は、原告に対し、金四九三九万二三二八円及びこれに対する平成二年五月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金九〇七八万六四二三円及びこれに対する平成二年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車と自動二輪車との衝突事故で、受傷した自動二輪車の運転者が相手方運転者に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。括弧内に適示したのは認定に要した証拠である。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成二年五月一三日午後六時五〇分ころ

(2) 発生場所 大阪府茨木市上穂東町四番一九号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪五三い二五五三、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 自動二輪車(大阪か三七四七、以下「原告車」という。)を運転中の原告

(5) 事故態様 本件事故現場付近道路を北進中の被告車が道路東側路外施設に進入するため、東に向け右折するにあたり、折から南進してきた原告車右側面部に被告車右前部が衝突し、原告が転倒して負傷したもの

2  被告の責任

本件事故は、被告の過失により発生したものであり、また、被告は被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、同人は、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、本件事故による原告の損害につき賠償責任を負う。

3  原告の受傷、治療経過、後遺障害(甲四、一一の1、2、弁論の全趣旨)

(1) 原告は本件事故により、胸髄脊髄損傷、右腕神経叢損傷、第五頸椎椎体骨折、第五胸椎椎体骨折、麻痺性イレウスの傷害を負い、大阪府済生会茨木病院、星ケ丘厚生年金病院で併せて平成二年五月一三日から平成三年一二月一一日まで入通院治療した(入院二六六日、実通院日数一〇五日)。

(2) 原告の症状は、平成三年一二月一一日、後遺障害別等級表第四級に認定された後遺障害を残して固定した。

4  損害の填補

原告は、被告から三七九万円、自賠責保険から一六三七万円、平成三年一二月から平成六年二月分まで障害基礎年金一六三万八〇〇〇円、障害厚生年金として一〇一万二六六二円の支払を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(1) 被告

本件事故は、被告が被告車を運転して、本件事故現場道路を南から北に直進し、本件事故現場で道路東側のガソリンスタンドに進入するため、一時停止した後、時速約五キロメートルの低速度で南から東へ右折中、対向停止車両の左側通行余地を北から南へ高速度で直進してきた原告車と衝突したものであり、渋滞車両の左側を単車で走行する際には減速したうえで前方に右折車両がないかどうかを注視する義務があつたにも係わらずこれを怠つたため本件事故が発生したものであるから相当な過失相殺がなされるべきである。

(2) 原告

被告車は、前記右折の際一時停止し、南進車両の有無を確認し、その安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然と右折進行したために発生したものであるから、被告の一方的かつ重大な過失により発生したものというべきであり、過失相殺をすべきでない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  証拠(甲六ないし一八、原告本人、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場付近は、南北にのびる片側各一車線(車道幅員三メートル、路側帯幅員二メートル)の道路(以下「南北道路」という。)とこれに東から突き当たる幅員五メートルの道路との丁字型交差点となつている。右交差点北東角に約三メートルの歩道を介してガソリンスタンドがある。

なお、南北道路の制限速度は時速四〇キロメートルである。本件事故当時、路面は乾燥していた。

(2) 被告は、被告車を運転し、南北道路を南から北に進行して本件事故現場付近に至り、ガソリンスタンドに入るべく東に右折しようと中央分離帯に寄つて一時停止した。当時、対向南行車線は渋滞していたが、対向車両が被告が右折し易いように停止してくれたので、被告は徐行で発進し、南行対向車両の動静を確認することなく、対向車の左側面より被告車前部を出したところ、南行車線の路側帯との境界付近を南進していた原告車の右側面部のマフラー等が被告車右前部のフォグランプ付近に接触し、原告車は車道と歩道との境界柵に衝突し転倒した。

南北道路路面にはスリツプ痕、擦過痕等の痕跡は認められなかつた。

以上の事実が認められる。(なお、原告車が制限速度を超えて走行していたと認めるに足りる証拠はない。)。

2  右によれば、被告は右折するに際し、徐行はしたものの、対向車線を横断するにつき、対向渋滞車両のため左側通行余地を南進する単車に対する見通しが困難であつたにもかかわらず、その安全を十分確認しないまま、停止車両の間から被告車前部を出したため、原告車と衝突したもので、被告の過失により本件事故が発生したというべきではあるが、南行車線が渋滞していたこと、被告車が右折進入しようとしたのは交差点に隣接するガソリンスタンドであつたことなどの本件事故現場付近の状況に照らすと、原告も対向右折車の存否を確認して走行すべきであつたのにこれを怠つた過失があつたというべきであり、その過失割合は被告が八、原告が二とするのが相当である。

二  原告の損害額(以下、各費目の括弧内は原告主張額)

1  原告立替分治療費(三万〇四四一円) 三万〇四四一円

証拠(甲二三の1ないし6)によれば、原告が本件事故による治療費として三万〇四四一円を立て替えて負担していることが認められる。

2  入院雑費(三九万九〇〇〇円) 三四万五八〇〇円

原告が二六六日間入院したことは前記のとおりであり、入院雑費として一日あたり一三〇〇円が相当であるから、三四万五八〇〇円となる。

3  付添看護費(一一九万七〇〇〇円) 〇円

原告の受傷程度は前記のとおり重篤であつたことは認められるが、原告本人によれば、大阪府済生会茨木病院は基準看護であり、母親も仕事帰りに見舞いに立ち寄つていたに止まつていたことが認められ、他に病院の看護とは別に付添い看護を要したと認めるに足りる証拠はない。

4  通院交通費(二八万三五〇〇円) 二八万三五〇〇円

原告が星ケ丘厚生年金病院に一〇五日通院したことは前記のとおりであり、その受傷程度によるとタクシーによる通院はやむを得なかつたといえ、弁論の全趣旨によれば、片道一三五〇円要したことが認められ、通院交通費は、二八万三五〇〇円となる。

5  傷害慰謝料(四〇〇万円) 三〇〇万円

原告の前記の受傷部位、程度、入通院期間、実通院日数等諸般の事情によると、慰謝料として三〇〇万円が相当である。

6  休業損害(五一四万五五六〇円) 四五七万四八一三円

証拠(甲四、一一の1、2、一六、一九の1、原告本人)によれば、原告は本件事故当時二三歳の健康な男子であり、株式会社日医工関西に勤務し、平成元年には年間二八九万三九四六円の給与を得ていたこと、本件事故により平成二年五月一四日から平成三年一二月一一日まで五七七日間就労することが困難であつたことが認められる。右によれば、原告の休業損害は、四五七万四八一三円となる。

(計算式)2,893,946÷365×577=4,574,813(小数点以下切捨て、以下同様)

7  後遺障害による逸失利益(七六七八万七七九二円) 六二八六万九四八九円

原告には第四級と認定された後遺障害が残つたことは当事者間に争いがなく、前掲証拠によれば、症状固定時二四歳であつたこと、胸髄損傷、右腕神経叢麻痺のため、右上肢の筋力はほぼ〇、手指の全廃、第五胸髄以下の感覚麻痺により排便・排尿障害といつた症状が残存し、前記勤務先も退職を余儀無くされたこと、その後も再就職が困難であることが認められ、本件事故がなければ、稼働可能な六七歳まで年間給与として、少なくとも平成三年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者二〇ないし二四歳の年間平均給与額三一一万〇三〇〇円の所得は得られたというべきであり、本件事故による後遺障害により六七歳まで四三年間にわたり九二パーセント労働能力を喪失したと認めるのが相当であるから、前記所得を基礎に、ホフマン式計算法により本件事故発生時から年五分の中間利息を控除して、逸失利益の現価を算定すると、六二八六万九四八九円となる。

(計算式)3,110,300×0.92×(22.923-0.952)=62,869,489

8  後遺障害慰謝料(一六〇〇万円) 一三五〇万円

前記認定の後遺障害の程度などの諸事情によれば、一三五〇万円が相当である。

9  車両改造費(六万〇七七〇円) 六万〇七七〇円

証拠(甲二、三)によれば、原告は、前記後遺障害のため、足がわりとして自動車が必要であり、その運転にあたり、改造が必要とされ、六万〇七七〇円を要したことが認められる。

10  家屋改造費(一〇四万二三六〇円) 一〇四万二三六〇円

証拠(甲五の1ないし3、二〇、二一、二二の1、2)によれば、原告は、前記後遺障害のため、便所、浴室、階段手すりの取付け等の自宅改造を余儀無くされ、そのために一〇四万二三六〇円を要したことが認められる。

11  小計

以上によれば、原告の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は八五七〇万七一七三円となるが、弁論の全趣旨により認められる被告側から既に支払われたため原告が請求していない治療費一八一万三七四〇円を加算すると八七五二万〇九一三円となる。

ところで、交通事故による損害の一部を年金給付により填補された被害者に過失相殺すべき事由がある場合、損害額に過失相殺をした後、年金給付を控除するのが相当であるから、前記過失相殺により二割の控除をすると、七〇〇一万六七三〇円となり、前記治療費一八一万三七四〇円、被告からの損害内入金三七九万円、自賠責保険金一六三七万円、障害基礎年金、障害厚生年金の支給合計額二六五万〇六六二円を控除すると(障害基礎年金、障害厚生年金は右年金給付の性質上、消極損害の填補にのみ充てられるべきであるが、右給付額が過失相殺後の被告の賠償すべき消極損害の範囲内にあることは明らかである。)、四五三九万二三二八円となる。

12  弁護士費用(六〇〇万円) 四〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は四〇〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上によると、原告の本訴請求は、被告に対し、金四九三九万二三二八円及びこれに対する不法行為の日である平成二年五月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 髙野裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例